小説制作過程の一例

 ネット上に、絵の制作過程公開は山ほどありますが、小説のそれはほとんど見られません。
 でも、創作に携わる者として「他の人がどうしてるのか」は気になるはず。そこで、拙作『午前八時の楽屋にて』を例に、私の小説制作過程を公開します。参考になれば幸いです。


1 着想

着想メモ
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 構想には自由帳を使っています。たいてい、絵とプロット、台詞をセットにして書き込んでいます。
 「女性視点で大神一郎との逢瀬の時を」という原点になるプランは、DC版「3」が出た頃にあったようです。
 当時は、『大神一郎とn人の私』というシリーズ名で、一人称による執筆を考えていました。その構想は、シリーズ最初の作品『画家と軍人』(カリーノ一人称)に名残を残しています。
 主人公、タイトル、台詞が書かれているところを見ると、それぞれにシチュエーションぐらいの種はあったのでしょう。


2 シリーズ構想決定

シリーズ構想メモ
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 主人公が相互に関係のない「私」たちから、「芸術家たち」というまとまりに変わったのは、『画家と軍人』を発表した後です。このときに、メル主人公で『オペラ座の怪人』を題材に、という骨子ができたようですね。
 他の主人公についても、タイトルとプレイスタイルが書かれてますね。
 また、下の方には一場面を抜き出したような絵と短文が書かれています。これは絵でいうとイメージスケッチに当たるものですが、完成品ではほとんど原形をとどめません。


3 プロット第一稿

プロット第一稿
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 タイトルは『The Point of No Return』(ウェーバー版ミュージカル『オペラ座の怪人』中の曲名)ですが、大まかなあらすじはここで決定しています。
 このときは2004年の映画版(ウェーバー版ミュージカルの映画化)がベースで、メルに歌わせるのがキモでした。
 絵の中に黄色い線が見えるのは、色鉛筆で引いたアタリ線です。


4 プロット第二稿

プロット第二稿
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 プロットが一回で決まることはほとんどなく、たいてい何回か書き直しながら細かくしていきます。
 ベースが2004年の映画版では考証上無理があるので、1910年初版の原作を読んで、そちらをベースに書き直したプロット。
 話の展開は「大神がメルに本を貸した→返そうとしたら早朝の楽屋を指定された→物語について語り合ううちに妖しいムードになり……」と、第一稿とまったく同じですが、メルの心の動きについての記述で倍近くに増えています。
 ここで、歌うのがメルから大神になってます。
 イメージスケッチも描かれてますが、完成稿では大幅に変更されました。ちなみに、「大神の声帯が類稀なる名器」という設定は、彼の声優さんが耳鼻科でそう言われた……というエピソードから。


4 執筆前後の勉強

作中楽曲一覧 声楽のコツ
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 オペラとその唱法という未知の分野について書くので、それについてある程度の勉強が必要です。広義の考証ですね。実際に曲を聴いたり、オペラやオペラ座に関する本を読んだり。それが作中にストレートに現れるのは勉強したことの1%もあれば多い方ですが、知って書くのと知らずに書くのとでは、筆の進みもリアリティも違ってきます。
 とはいえ、毎回毎回こんな律儀に勉強しているわけではありません。ここまでやるのは、どうしても分からなくて調べたいことがあるときとマニアな読者の目が怖そうな分野の話を書くときぐらいです。資料は図書館で借りてます。

『午前八時の楽屋にて』参考文献一覧
DVD
・映画「オペラ座の怪人」(2004年)
CD
・パリ国立歌劇場管弦楽団及び合唱団演奏 ジョルジュ・プレートル指揮
歌劇「ファウスト」全曲(東芝EMI 1978年)
・アンナ・ネトレプコ&ローランド・ビリャソン歌
 ドレスデン国立管弦楽団演奏 ニコラ・ルイゾッティ指揮
 「デュエット集」(UNIVERSAL CLASSICAL&JAZZ 2007年)
書籍
・エスター・サラマン著 西原匡紀訳
 「声楽のコツ 自由な発声法への鍵」(音楽之友社 1993年)
・ガストン・ルルー著 長島良三訳
 「オペラ座の怪人」(角川文庫 1999年)
・原研二著
 「オペラ座『黄金時代』の幻影劇場」(講談社選書 1996年)


5 本文執筆

 文章はWordを使って書いてます。自動校正機能は全部オフ。
 一度に全部は書けず、毎日少しずつ書きます。そのたびに軽く推敲をしているので、平均すると、執筆しながら全体を3〜4回推敲しています。
 タイトルは、この時点では仮決めです。書き上げてから考え直します。


6 最終的な推敲

推敲
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 最後まで書き上がったら、全文印刷して音読します。こうすることで、誤字脱字が発見しやすくなり、文章のリズム感を整えることができます。
 かくも大事な作業なので、どんなエロ話でもこの作業は必ず行います(喘ぎ声部分はさすがに音読しませんが)。通常は一回、余裕があれば二〜三回。


7 Web用に体裁を整える

 文章としての小説は前項で完成ですが、Webにアップするときは、画面で読みやすいように改行量・配色を調整します。
 どんなに長くなっても一段落が十行以内に収まるように、というのが目安。文章の大きな塊があると読む気を削いでしまうので、見やすいよう段落ごとに一行空けたりしています。
 配色は、淡色無地背景に濃色文字が基本。色の決定はまだまだ手探りです。